お坊さんと鉄砲

2025.02.25

 1月のコラム「趣味は読書」は、「わたしは、自分の趣味は仕事と読書と映画鑑賞だと思っています。映画鑑賞については、昨年の12月のコラム『126』で、昨年ほとり座で観た映画126本について書きました。読書については、昨年10月のコラム『読書の秋』と11月のコラム『井上ひさし』で書きました」と書き出しています。

   

 昨年8月の「映画はほとり座で」では、これまで観た映画で印象に残った作品について次のように書いています。「どうしてももう一度観たいと思って1週間の間に2回観た『こちらあみ子』、今年2月に観た、孤独を抱えながら生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたフィンランドのラブストーリー『枯れ葉』、そして先日観た『東京カウボーイ』や、笑福亭鶴瓶も出ていた『あまろっく』、外国映画では、オードリーヘップバーンの『ローマの休日』や、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの『ひまわり』など、観てよかったと思った作品が圧倒的に多いです。」

   

 さて、今年もせっせとほとり座に通っています。1月は11本観ましたが、2月は8本観ます。2月11日の祝日に2人の孫と一緒に観た「ロボット・ドリームズ」、帰り際に2人とも泣いていました。ラストシーンが切なかったようです。

   

 この2か月で最も面白かったのは、今年最初に観た「侍タイムスリッパー」です。この映画は、3月15日~3月21日にアンコール上映します。2月7日の北日本新聞には「時代劇に愛を込めて 斬られ役60年、峰蘭太郎さん(黒部出身)『侍タイムスリッパー』出演」という記事が載っていました。アンコール上映は、わたしがこれまで経験したことがありません。社員の皆さんにお薦めです。

   

 最も心に残った映画は、2月16日(日)に観た、表題の「お坊さんと鉄砲」です。チラシから概要を引用します。

   

 時は2006年。国民に愛された国王の退位により、民主化へと転換を図ることになったブータンで、選挙の実施を目指して模擬選挙が行われることになりました。周囲を山に囲まれたウラの村で、その報せを聞いた高僧は、なぜか若い僧に銃を手に入れるように指示します。時を同じくしてアメリカから“幻の銃”を探しにアンティークの銃コレクターがやって来て、村全体を巻き込んで思いがけない騒動が持ち上がります・・・。

   

 長編映画監督デビュ-作の「ブータン 山の教室」(’19)が世界中でサプライズヒットとなったパオ・チョニン・ドルジ、待望の監督第2作。前作では秘境ともいえる地で、伝統を守りながら生きる人々の暮らしを活写しつつ“学ぶ”ことによって未来は切り開かれていくのだと示した監督が、今回モティーフに選んだのは「選挙」。初めての選挙によって“変化”を求められ戸惑う村の人々の姿を、前作同様、温かい眼差しと飄々としたユーモアで紡ぎながら、本当の幸せとは何かを、観る者に問いかけます。

   

 わたしは予告編で、若い僧が鉄砲を担いで道を歩いているところへ、銃コレクターが車で追いかけてくるシーンを観て、面白そうだと予定に入れましたが正解でした。面白いというより、考えさせられる映画でした。

   

 Google Chromeでブータンを検索すると次のように書かれていました。南アジアにあるブータンは、発展途上国ながらGNH(Gross National Happiness:国民総幸福)が2013年には北欧諸国に続いて世界8位となり、“世界一幸せな国”として広く知られるようになりました。GNHは1972年、第4代のジグミ・シンゲ国王によって提唱され、GDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)ではなく「国民の幸福は経済成長よりも重要」との考えのもと生まれました。国民が皆一様に「雨風をしのげる家があり、食べるものがあり、家族がいるから幸せだ」と答える姿が報じられました。

   

 観終わって、この映画のパンフレットを買い求めました。監督へのインタビューで、監督は、「GNH(国民総幸福)のような概念や、『無垢』といった資質を尊重することが、私がブータンの物語を世界と分かち合おうとしている理由です。」と語っていますが、やはりGNHを意識していたのだと分かりました。そして、仏塔の土台を作るために掘った穴の中に銃を投げ込むラストシーンになぜか涙が出ました。

   

 パンフレットに書かれたエッセ-の一つにこんな文章がありました。ブータンで武器といえば、まっさきに思いつくのは弓矢か刀であるはずです。それなのに、お坊さまが考えた「争いの象徴」が「銃」であったのは、「海外から入ってきた争いの種」として「選挙」と「銃」を重ねて見たからかもしれません。

   

 この文章で、「お坊さまと鉄砲(The Monk and The Gun)」という映画の題の深い意味を知りました。そしてわたしの涙が、争いの象徴の銃を放棄したことに共感したからだと思いました。

   

私が尊敬する中村天風師の教えは、人間として生まれてきたからには「積極的に生きようではないか」、苦しいことがあったからといって「下を向かずに前を向くべき」というポジティブ思考ですが、ブータンの国民の生き方にも、中村天風師の教えと相通じるものを感じました。

   

 読書も映画も、わたしの成長のために欠かせないものだと、改めて思いました。

趣味は読書

2025.01.24

 わたしは、自分の趣味は仕事と読書と映画鑑賞だと思っています。映画鑑賞については、昨年の12月のコラム「126」で、昨年ほとり座で観た映画126本について書きました。読書については、昨年10月のコラム「読書の秋」と11月のコラム「井上ひさし」で書きました。

   

 「読書の秋」では、朝日新聞名物・名文記者の近藤康太郎さんの著書「三行で撃つ」について書き、「井上ひさし」では、古志の国文学館で開催された生誕90年 井上ひさし展で買い求めた「井上ひさし ベスト・エッセイ」について書いています。

   

 「読書の秋」で、「わたしは過ごしやすい秋が来たから読書しているわけではなく、暑さや寒さに関係なく一年を通して、何らかの本を読んでいることに気付かされました」と書いていますが、本は小さいころからよく読んでいました。今でも覚えているのは、小学4年生の時に読んだ石井桃子の「ノンちゃん雲に乗る」です。蓮町に住む友達の家に行くために乗った富山港線の電車の中で読み始めたことも覚えています。中学生の時は、読書感想文を書くために獅子文六の作品を読みました。

   

 わたしの読書好きは、幼稚園の頃、母が寝るときに本を読んでくれたことによると思っています。終戦後間もない頃でしたから、紙が茶色っぽい本でした。アンデルセン童話の人魚姫、マッチ売りの少女、みにくいアヒルの子、グリム童話の白雪姫、ヘンゼルとグレーテルなど、日本人の作品では、小川未明の赤い蠟燭と人魚、浜田広助のむくどりのゆめ、坪田譲二のつるのおんがえしなどでした。

   

 小学2年生のころ、教育実習生のおにいさんに「大きくなったら何になりたい?」と聞かれ、「作家」と答えたら、「サッカー選手だね」と言われ、違うんだけどな、と思ったことを覚えています。

   

 さて、今読んでいるのは、「井上ひさしベスト・エッセイ続 ひと・ヒト・人」、「中村天風の教えがマンガで3時間でマスターできる本」と、この本を本屋に買いに行ったときに、入り口に並べてあった、帯に「追悼 谷川俊太郎さん」とある詩人谷川俊太郎と歌人俵万智の対談「言葉の還る場所で」と谷川俊太郎の「詩選集1」、そして電子BOOKで読んでいる夏目漱石の「吾輩は猫である」です。

   

 「吾輩は猫である」は、読みだしてからふと左下の表示を見たら、351/2230 とあるではありませんか。名前はまだない猫と、この猫が飼われている家の主人とを中心として、その家に出入りする人たちや猫の仲間とのことが書かれていてなかなか面白いのですが2230ページもあるのには驚きました。読書好きの社員のTさんに「吾輩は猫である」を読んだことがあるかと尋ねたところ、彼も途中で挫折したとのことでした。妻に聞いたら「わたしは日本文学科卒業よ。読んでいますよ」と言われ、さすがだと思いました。

   

 「井上ひさしベスト・エッセイ続 ひと・ヒト・人」は、東西の作家や役者について井上ひさしが書いていて、これも読みかけです。でも、第2章のタイトルが、カナシイ夜は「賢治全集」で、わたしが最も好きな作家の宮沢賢治を取り上げていて、賢治について深く考察されています。冒頭部分に、オーストラリア国立大学の日本語科で教師のまねごとをした時に、「賢治はわたしの新しい聖書です」と、きっぱりという学生が何人もいた、と書かれていたのには驚きました。今、352ページ中の176ページ、北杜夫『高みの見物』まで読んでいます。最後に取り上げているヒトは、わたしが大好きな役者渥美清さんについての「渥美清とフランス座」です。わたしは本は最初から順番に読んでいくのですが渥美清となれば、中を飛ばして今夜読みます。

   

 本は紙で読むものだと思っていますが、電子BOOKの中の宮沢賢治の作品を見ていたら、賢治の作品は童話も詩もすべて読んでいると思っていたのに「さるのこしかけ」という見覚えのない作品が目に入りました。これも今夜読みます。

   

 電子BOOKでは、自由律俳句の俳人で、「分け入っても分け入っても青い山」が有名な種田山頭火や、「檸檬」の梶井基次郎、「夫婦善哉」の織田作之助、「堕落論」の坂口安吾など、それぞれ本を買って読んではいたのですが、今はどこにあるかわからない作品を読みました。そして初めて読んだのが、新見南吉の「おじいさんのランプ」、「ごん狐」、「最後の胡弓弾き」、「手袋を買いに」です。どれも心に残る作品で、電子BOOKを毛嫌いしてはいけないと思いました。

   

 電子BOOKは、スイッチを入れると「大人の書斎日本の名作300」と出てきます。

古志の国文学館で開催された生誕90年 井上ひさし展の最終日に再度訪れ、井上ひさしの本を21点、31,059円買い込みましたが、初日に2点買っているので23点になります。すべてベッドの横の紙袋に入ったままです。電子BOOKも井上ひさしも、いつ読み終えられるかは分かりませんが、毎日の晩酌の量を控えて、読書時間を確保することにし、人生を楽しみましょう。

128

2024.12.25

 128は、今年総曲輪通りの映画館「ほとり座」で1年間に観た映画の本数です(このコラムを書いている12月24日現在は125本です)。

今年8月のコラム「映画はほとり座で」には、「昨年は95本で一昨年は88本でした。この8月のコラムには「これまで「趣味は何ですか?」と聞かれたら『読書です』と答えていましたが、この頃は読書時間がずいぶん減り、私の趣味は明らかに映画鑑賞に変わっています。今年は、100本を超えるのは確実でしょう。」と書いていますが、昨年よりも33本も多く観ることになります。

   

 1月に18本、2月に12本観ましたが、感想はこのコラムの2月号に書いています。3月は17本で4月は7本と少な目、5月が9本、6月も9本、7月も9本、8月が10本、9月には14本、10月が8本、11月はわずか5本でした。そして今月が昨日までに7本です。

   

 手帳に記入した映画のタイトルから、すぐに内容を思い出せるものもあれば、さっぱり記憶がないものもあります。1~6月で内容が思い出せたのは、3月のコラムに書いた「枯れ葉」です。コラムに「フィンランドの名匠アキ・カウリスマキが5年ぶりにメガホンをとり、孤独を抱えながら生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたラブストーリー」と書きましたが、今でも映画のシーンが思い浮かびます。

   

 4月に観た「コット、はじまりの夏」は、解説に「1980年代初頭のアイルランドを舞台に、9歳の少女が過ごす特別な夏休みを描いたヒューマンドラマ」とあり、本作がデビュー作となるキャサリン・クリンチが主人公コットを圧倒的な透明感と存在感で繊細に演じ、アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞を史上最年少の12歳で受賞とあります。「圧倒的な透明感と存在感で繊細に演じ」は、確かにそうだと思い、8歳の孫娘、5歳の孫息子はどんな風に表現できるだろうかと思いました。

   

 5月に観た「区長になる女」は、政治と金の問題で揺れている国会の状況が毎日報道される現在、2022年6月に行われた杉並区長選挙で、ベルギーで長く環境問題に取り組んでいたNGO職員の岸本聡子が一時帰国し、現職の田中良区長を187票差で破り初当選したというドキュメンタリー映画で、一市民として行動すること、行動できることについて考えさせられました。

   

 6月は、「悪は存在しない」、「無名」、「夜明けのすべて」など、良い映画を多く観ましたが、「石岡タロー」が特に心に残っています。作品情報には「茨城県石岡市を舞台に、1匹の保護犬が飼い主を探すために駅に通い続ける姿や、犬と人々との交流を、実話をもとに温かいまなざしで描いたドラマ」とあり、動物愛護センターで殺処分されそうになっていたタローを、彼を飼っていた小学校の用務員さんが間一髪のところで檻に入っていたタローを見つけ出すシーンに、心の中で拍手しました。わたしは自宅にクロスケという15歳の柴のミックスの雄犬を飼っていますが、タローほど賢くはありません。しかし、この映画を観てから、クロスケへの「元気でいてくれよ!」とか、「一緒に散歩してくれて、ありがとう」などの声掛けが増えました。

   

 7月の「ONE LIFE 奇跡が紡いだ6000の命」は、「1938年。何百人ものユダヤ人の子どもをナチスの脅威から救い、イギリスに避難させたニコラス・ウィントン。50年後、彼はすべての子どもを救うことができなかったことに対し、深い悲しみと苦悩を抱え続ける。」(概要)という映画です。ロシアとウクライナの戦争やイスラエルのガザ地区侵攻などで、多くの人々が毎日死んでいることを思い、せめて金銭的な支援をと、「国境なき医師団」や「国連UNHCR協会」への寄付を増やしました。

   

 8月に観た映画の題名からすぐに思い出せるのが「あまろっく」です。笑福亭仁鶴が演ずる65歳の能天気な鉄工所の社長が、28歳の女性と再婚するという話です。妻が妊娠したと知って、社長は健康のためにとジョギングに出かけ、雷に打たれて死んでしまいます。優秀だが独身の39歳の娘は、破綻しかけている鉄工所を売ろうと考えるも、最後は優秀な商社マンと結婚。夫は海外赴任を断って退職し夫婦で鉄工所で働き、未亡人になった女性も、赤ちゃんを従業員のおばさんにあやしてもらいながら、バーナーで鉄を加工しているというシーンで終わりました。後味の良い映画でした。

   

 9月ですぐに思い出されるのが「クレオの夏休み」です。父とパリで暮らす6歳の少女が、家庭の事情でアフリカの祖国に帰ってしまった大好きな家政婦のナニーのもとへ1人で向かう。そこで彼女は、ナニーと共に夏休みを過ごす中で様々な経験を重ねて成長していくという話です。「かわいい子には、旅をさせよ」と言いますが、わたしの孫たちにも、一人旅をさせたらよいと思いました。

   

 10月は「本日公休」です。台中にある昔ながらの理髪店を40年にわたって営む女性店主が、離れた町から通い続けてくれる常連客の“先生”が病に倒れたことを知って、店に「本日公休」の札を掲げ、古びた愛車に乗り込んで先生のもとへ向かい髭を剃るという話です。途中で他人の車と物損事故を起こしたものの、先を急ぐためそのまま走り去り、事故の相手が息子の友達だと分かって事故車を運んでもらいます。人間愛のあふれる映画でした。

   

 11月は「ボレロ」でしょうか。フランスの作曲家ラベルによる不朽の名曲「ボレロ」の誕生秘話を描いた音楽映画です。ラベルは脳の手術を受けるも昏睡状態のまま1937年12月28日の未明に62歳で亡くなりました。

   

 

そして今月は、21日(土)に観たフランス映画「ゴンドラ」と、22日(日)に観た、33歳の空音央(そら ねお)監督の「HAPPYEND」です。「ゴンドラ」のチラシで、この映画を上手にコメントしていました。

・あたまの中がいちばん広い・山の谷間の古い2つのゴンドラが世界をすこし幸福にする・どこにも行かないけれど、どこにも行ける!・セリフがないから生まれる映画的瞬間!

   

 「HAPPYEND」。高校生のユウタとコウは幼馴染の大親友で、卒業を間近に控えたある日、2人は夜の校舎に忍び込み、とんでもないいたずらを仕掛ける(概要)という映画です。この日は、監督の舞台挨拶がある日で、客席は9割以上埋まっていました。映画は観る人によっていろんな観方があると思いますが、わたしは外国にルーツを持つ高校生の心情と、校長が設置したAI監視カメラで生徒の行動をチェックし、規則に縛り付けようとする大人の態度に、会社経営をだぶらせて観ました。

   

 帰りに、富山市水橋出身で、フランスを拠点に映画を製作している平井敦史監督に会いました。平井監督が作った短編映画「湯」は、カナダのモントリオール・ニュー・シネマ国際映画祭と、スイスで開催されたヴィンタートゥール国際短編映画祭のインターナショナル部門でグランプリを受賞していますが、彼は、この映画をもう一度観ると言っていました。27日(金)まで上映しています。お薦めです。

   

 今は、来年1月の予定表を見ながら、いつ、どの映画を観ようかと、ウキウキしながらチェックしています。