11月16日に名古屋市で開催された「三方良しの公共事業改革推進カンファレンス2010」に、昨年東京で開催され私も事例発表した「三方良しの公共事業改革推進国際カンファレンス2009」に引き続き参加した。
この会議(カンファレンス)で最も印象に残り感激もし、会議が終ってからもいろんな席でいろんな人に紹介しているのが、国土交通省中部地方整備局企画部長の野田徹さんが座談会の冒頭で述べられた「究極の発注者責任とは、受注者に損をさせないことだ」という発言であった。
野田さんは、座談会での再度の発言で、「究極の発注者責任とは、受注者に損をさせないことだが、それは発注者の原因によって損をさせないということ」と「発注者の原因によって」を補足された。
このことが重要なのだ。施工者の工程管理が悪くて手戻りが発生したとか、品質管理が悪くて手直しをしたとか、安全管理の不備から事故が起きてその処理に費用がかかったとかといった施工者(受注者)に100%原因があって発生する損失以外に、発注者が原因で損が発生しているという事実があることを、発注者の中でもトップの国土交通省の幹部がシッカリ認識しているからこその発言なのである。
今、国土交通省だけでなく県の工事でもワンデーレスポンスが行なわれているが、このワンデーレスポンスは以下の経緯で生まれた。
国土交通省北海道開発局の開発監理次長に就いた奥平聖さんが、2004年7月に行った同局発注工事の現場代理人経験者に対するアンケートで、現場から出る質問に対して,発注者の回答や判断が遅いという指摘が目立ち、発注者の冗漫な現場対応が,建設会社の経営に少なからずマイナスに働いていたことを知った。そこで、極力、現場を止めないために、受注者の質問に迅速に答えるようにしていこうと考え、「現場から挙がってくる質問や相談に対して,発注者は1日以内に回答せよ」と自らが名付けた取り組みである。(「日経コンストラクション」平成19年
12/28)
この北海道での取組みが、2007年5月8日、東京で開催された「三方良しの公共事業改革推進フォーラム」の席での「三方良しの公共事業改革宣言」に繋がった。そしてその後、三方良しの運動の定着化を目指すことを目的とした「三方良しの公共事業推進研究会」の設立(2008年5月)に、私自身も関わることになった。
2009年7月7日には、私が企画して富山県建設業協会の主催で「三方良しの公共事業推進セミナー」をボルファートとやまで開催し、当社が施工した富山大橋右岸函渠工工事(富山県発注)でのワンデーレスポンスの取り組みについて、前富山土木センター管理検査課プロジェクト推進班副主幹の浜本進さんと当社の現場代理人を務めた稲葉仁さんが事例発表した。
このようにワンデーレスポンスや三方良しの公共事業改革運動に共感して活動している私だが、「三方良しの公共事業改革推進カンファレンス2010」で野田さんの言葉「究極の発注者責任とは、受注者に損をさせないことだ」を聞き、企業は利益を上げなければ存続できない存在であるという当たり前のことを確認させられたという思いをしている。
当社の土木工事部の技術者からは、発注者の監督員に「業者に損をかけない」との思いはさらさらなく、反対に「業者を儲けさせてはいけない」、「業者の言い分を聞いてだまされてはいけない」といった対立的態度の人も見受けられると聞く。この他、よく言われることだが、地元との協議が済んでいなくて着工までに半年もかかることがある、条件明示が不十分なために予想外の原価が発生する、特殊材料の価格が設計で安く見すぎている、提出書類に関して粗(あら)探しのような指摘をされ訂正させられるなど、利益を失う要因には事欠かない状況はあまり改善されていない。野田さんや奥平さんのような発注者は稀なのである。
私が今年の新年式で、今年度の経営方針のひとつに「人材育成(特にコミュニケーション能力)=発注者と施工者の対等の関係作り」を挙げたのは、発注者と受注者の片務性、即ち受注者のみが義務を負わされると言う関係を、何とか対等な関係に持って行きたいと考えているからであった。
ご承知の通り、今年度の国の公共事業予算は「コンクリートから人へ」の民主党の間違った政策の下に前年比18.3%約5兆7700億円と大幅で目茶苦茶な削減をされたが、当時の前原国土交通大臣は、国土交通省の予算削減目標額を1年間で達成したのだから、次年度以降は前年並みの予算編成をすると言った。しかし現実は、「国交省の公共事業5%削減=4兆6000億円に−来年度予算案」(時事)である。来年は、建設業にとって極めて厳しく恐ろしい年になるであろう。
利益が出なければ企業は存続できず、世の中に貢献できない。確実に利益を確保するためには、クッションゼロ(CZ)式予算管理を個別工事だけではなく、部門で、全社で、もっとスピードを上げて追求することだ。発注者の多くが「究極の発注者責任とは、受注者に損をさせないことだ」と意識改革するのを待っている余裕はないのである。