水力発電が日本を救う

2016.10.29

水力発電が日本を救う」は、元国土交通省河川局長の竹村公太郎さんの著書で、9月1日に発行されたばかりです。

 私は、竹村さんに一度お会いしたことがあります。それは建設省OBの脇雅史参議院議員の2回目の選挙が近づいたころに、国土交通省を平成14年に退官した竹村さんが来富され、富山県建設業協会員に脇議員の支援を依頼されたときでした。そのとき司会者から竹村さんの経歴を聞き、私の大学の1年先輩であり、大学院修士課程(土木工学)の卒業が、私が経済学部を卒業した昭和45年であると知り、親近感を覚えました。

 このとき、竹村さんが書いた「日本文明の謎を解く-21世紀を考えるヒント」が紹介され早速購入し、面白くて一気に読み終えたことを覚えています。

 竹村さんは多くの本を著していますが、「水力発電が日本を救う」を知ったのは、先月、朝の犬との散歩中に聞いたNHK第1「マイあさラジオ」での「著者に聞きたい本のツボ」でした。

 ”序 100年後の日本のために”は、「私はダム建設の専門家で、水力発電を心から愛する人間の一人だ。未来の日本のエネルギーを支えていくのは水力発電、そう考えている。」で始まります。

 本を読み進むと、建設省(現国土交通省)の河川局で、川治ダム大川ダム宮ヶ瀬ダムと、三つの巨大ダムを造ってきた竹村さんが、将来の日本の電力について真剣に考え、提言していることがひしひしと伝わってきて、憂国の情さえ感じられました。

 「日本のエネルギー政策は曲がり角に来ている。石油などの化石燃料は地球温暖化を促進してしまう。さらに50年後、100年後には必ず枯渇してしまう。原子力は、福島第一原発の事故以来、方針が否応なく変更され、安易な拡大は出来ない。そこで、再生可能エネルギーが注目されているが、水力こそ最も古くから開発され、技術的に完成された再生可能エネルギーなのだ。」(93ページ)という状況下で、巨大ダムを造る時代は終わったが、それでも水力発電は増やせると、竹村さんは以下の3つの方法を述べています。

 その第一は、半世紀以上前に作られた河川法第一条の目的を改正し、水力エネルギー開発を河川行政の目的そのものにすることで、「治水」と「利水」の矛盾した目的のため、満水の半分くらいしか水を貯めていない時代遅れの運用をしている日本の多目的ダムにもっと貯水し、発電力を格段に増やすことです。

 第二は、水力発電の潜在的な力を引き出す重要な手段がダムを嵩上げすることであり、10%の嵩上げで発電能力はほぼ倍増することになるので、ダムをもう一つ造るのと同じになります。実際の嵩上げの例として北海道の夕張シューパロダムがあり、ダムの高さを約1.5倍にすることで、貯められる水が5倍近くまで増えました。

 そして第三は、砂防ダムや農業用水ダムなどのように、発電とは別の目的で造られた多数のダムに発電させることです。

 どの方法もなるほどと納得させられるものですが、河川法を改正することで、水力発電に対する河川行政の姿勢を大きく変えることができ、ダムに眠っている潜在的な巨大電力をまったくコストをかけずに現実社会に活かすことができるという主張に、建設行政の中心で長らく河川行政にかかわってきた竹村さんの言葉だけに、強く心を打たれました。それは、公共事業を主体とする当社が「建設事業を通して世の中の役に立つ」という経営理念を実現するには、発注者である行政の姿勢に大きくかかってくるという当たり前のことに気づかされたからです。

 この本にはダムが壊れない3つの理由も述べられていますが、当社の土木技術者諸君は答えられますか。一つ目の理由は、コンクリートには鉄筋がないからなのです。読んでビックリしましたが、鉄筋がないとなぜ壊れないかが良く理解できました。さて、他の二つの理由は何でしょうか。税抜き1,400円のこの本を買って、土木技術の知識を深めてください。そして、自分が携わる公共工事のあり方についても考えてほしいと思います。

 経営理念の二つ目は「社員は成長する資源」です。成長に読書は欠かせません。