「人づくり革命」と3000億円

2017.11.01

日経新聞11月10日のコラム「春秋」は「退屈な歴史の授業でも、たまに『革命』が出てくると話が面白くなったものである。」で始まり、私の9月のコラム「『働き方改革』に思う」では、「最近の新聞を読んでいて、目にするたびに嫌な感じがするのが、『働き方改革』と『人づくり革命』です。」と「革命」から書き出していたので、何が書かれているのかと興味を持って読み出しました。

 私のコラムは「(前略)『働き方改革』と『人づくり革命』には、まず『改革』とか『革命』といった文字にゾッとしました。特に革命には、ルイ16世が処刑されたフランス革命、ニコライ2世とその家族全員が射殺されたロシア革命、そして多数の人命が失われた中国の文化大革命と、血生臭さを感じてしまうのです。」と続けましたが、「春秋」は、「バスチーユ監獄襲撃に始まるフランス革命や今年で100年を迎えたロシア革命。現代史だとキューバ革命あたりがドラマチックか。全共闘世代にもカクメイを叫んだ方がおられよう。▼そんな物々しい響きを持つ言葉を政策の看板に持ってきたのだから、安倍政権もずいぶん大胆だ。」と続けています。私のコラムで取り上げたフランス革命とロシア革命が、「春秋」でも取り上げられ、ちょっと良い気分でした。

 そして「春秋」は、「『人づくり革命』に『生産性革命』。このうち『人づくり』では消費増税による増収分から、幼児教育や大学の無償化に1兆7千億円を回すという。国の借金返済にあてる予定だったお金を、ポンと振り向けてくれるそうだ。」と、私のコラムのテーマと同じ「働き方改革」と「人づくり革命」に話が展開しました。

 さらに「春秋」は「3~5歳児は親の所得に関係なく幼稚園・保育園の費用をただにします。低所得世帯に絞りはするものの、大学生の授業料や生活費も面倒をみます。――などと気前のいいプランが並んでいる。おやおや、自民党とは水と油のはずの社会主義かと思ってしまう分配政策だ。さすがに大上段に、革命を唱えるだけのことはある。」と皮肉をこめて続け、最後は「もとより、こんどの選挙で掲げた政策だ。圧勝した以上はそれを推し進めて当然というムードだが、すこしは未来の心配もしたらいかがだろう。(中略)革命の後に深い悔悟あり。歴史の授業ではそういうことも学んだ。」で終わります。

 さて、先月私が腹立たしく思ったニュースが、「保育所整備3000億円拠出 首相要請 経済界、受け入れ意向(10月27日「人づくり革命」の会合)」です。政策の実行に必要となる2兆円のうち1.7兆円は、消費税を10%に引き上げた際の増収分を充て、残りの3000億円を社会保険料のうち企業が支払う事業主拠出金を引き上げて確保するというではありませんか。これでは消費税を10%に上げた上に、さらに一種の税金である社会保険料を上げるという「だまし」ではないかと思いました。企業が支払う事業主拠出金だからといって、社員が一所懸命に働いて生み出した付加価値から企業が支払うのですから、企業の利益が減るという形で社員にも痛みが生じると思うのです。

 また、高等教育の充実のために「大学生の授業料や生活費も面倒をみます」では、大学生の学力低下が大きな問題とされている現状では、大学生の資質をますます落とすことになると危惧します。本当に学びたいと思う人だけが大学に行けばよいのです。

 私は消費税増税には反対ですが、100歩譲っても、最初から「人づくり革命」に2兆円ありきではなく、消費税増税分の1.7兆円でできることを考えるべきではないでしょうか。

 さらに、消費税を上げれば必ず消費が落ち込み、予定したほどの税収増とならないことは、過去の消費税増税が示しています。そうなったときにどうするのでしょうか。まさに「取らぬ狸の皮算用」というものです。

 10月のニュースでもう一つ腹立たしかったのが、「安倍首相は26日の経済財政諮問会議で、『3%の賃上げ』に対する経済界への期待を表明した。首相が事実上の賃上げ要請をするのは5年連続となる。」です。3000億円といい3%といい、要請とは言うものの「ゆすり、たかり」であり、経済界を「打ち出の小槌」と思っているのではないでしょうか。

 10月のコラムに書いた「そして、衆議院選挙が終盤戦に入った今(10月19日)、立派な政治家を育てることが大切」を改めて実感しています。