お盆休みの片付け

2011.08.01

本社4階営業部の7人が、3階の総務部と同じフロアに移った。これもリストラの一環である。リストラと言っても、営業部の7人、総務部の3人の合わせて10人の社員数を何人か減らした訳ではない。リストラは英語の Restructuring の略語で、本来の意味は「再構築」であるから、いささか大げさだが、仕事の効率を上げるために、本社社屋の3階と4階のフロアの使い方を「再構築」したのである。
 本社の4回線の電話は最後の数字の番号によって、代表電話番号の441-3201は3階の総務部の女性社員、それ以外の番号は4階の営業部と2階のユニバーサルデザイン室(UD室)の女性社員の電話機が鳴るように設定されている。ただし、総務部の女性の電話機だけはすべての番号が鳴るようになっている。
 これまでは、2階のUD室や、4階の営業部に用事がある人が代表電話番号に電話すると、電話を取った総務部の女性社員はその電話を一旦保留し、目的のフロアの相手を呼び出し、電話をかけてきた人の名前を告げて転送していた。転送先の社員が不在の場合は、電話を取った社員がその旨をかけて来た人に伝えるか、不在だと言って総務部に戻していた。皆さんも、電話をかけたものの、「しばらくお持ちください」と言われ、長らく待たされた挙句、「ただいま外出中です」と言われた経験があると思う。これでは、電話をかけてきた人にとっても、電話を転送したもののその電話がまた戻ってきて対応する総務部の社員にとっても時間の無駄だ。
 ワンフロアになれば、一目で部屋にいるかいないか、外出なのかどうかが分かり、電話をかけてきた人にとっても、電話を受けた社員にとっても時間を有効に使うことが出来る。また、フロアが分かれていると、書類を届けたり、頼みごとや質問をするにも、階段を上り下りしなければいけない。これだって時間の無駄と言える。
ということで、経営が非常に厳しくなっていることに鑑み、仕事の効率を上げるためのひとつの方策として4階から3階への引越しを決め、お盆前から準備を始めた。この引越しの一番の課題が、総務部のフロアにある私の2つの机、そして、私の椅子の後ろの本棚にぎっしり詰まった書類と、机の上や周りにうずたかく積み上げられている書類だった。3年前に電気部をUD室に組織変更し私がUD本部長になってから、私は常に2階のUD室フロアで仕事をし、3階の私の机の上は私が2階から運ぶ書類で一杯の状態になっていたので、今回の移動は私の書類廃棄の手段でもあった。
 お盆明けの17日に移動することになり、13日から4日間のお盆休み中、私は午後4時間から8時間、エアコンもつけず、上半身下着姿で片付けに励んだ。何しろ、私が昭和50年に入社してから36年間の書類である。各種加盟団体や委員として出席した審議会などでの資料、参加した講演会やセミナーの資料、社内会議資料や賃金関係の資料、社員の作文、個人の生命保険証書や古い銀行通帳、さらに新聞の切抜き、名刺、写真、フロッピーディスク、文房具、各種バッヂ、ネームプレートなどなど雑多である。思い切って捨てれば2日間くらいで終わると思っていたが、残す資料を区別するのに時間を取られ、手を止めて懐かしい写真や名刺を眺める時間も多かった。写真を見れば、髪の毛が黒いし若かったなあと思い、名刺を見れば、こんな女性に会ったかなと思った。
 いろいろ貴重な資料に出会ったが、あるセミナーに出席した時のメモに、私の汚い字で、「時は金なり、というが、時は命なり、である。」と書かれていた。お金は失っても取り戻せるが、命は失ったら取り戻せない。だから、時は、お金以上に大切にしなければいけない、というものだった。
 これを見て思ったのが、「新老人の会」会長の日野原重明先生が、小学生への「いのちの授業」で話される、「命とは時間」だった。「時は命なり」を反対にしたのが「命は時なり」だと一瞬思ったが、何度か思い返しているうちに、そんなに単純なものではないと思えてきた。
 日野原先生は、「命は風や空気中の酸素のように目には見えないけれど、朝起きて、食事をして歯を磨き、学校に来て勉強したり遊んだりしているのは、時間を使っているということであり、時間を持っているということ。だから、命とは時間」と話される。命は時間を使うことなのだから、その時間を誰のためにどのように使うのかが大切なのだとおっしゃっている。単に、失ったら取り戻せないから大切にしましょう、と言っておられるのではないのである。
 お盆休みの片付けの時間は、命について考え、これからの人生を、仕事に、家庭に、地域に、日本に、世界に対して、どのように時間を使ってかかわればよいのかと考えさせられた時間であった。また、36年間の歳月を生きてきた私の命について、振り返り反省させられた時間でもあった。
 これからは出来るだけ整理整頓された机に向かい、経営者としてなすべき仕事をしっかり考え着実に実行し、密度の濃い時間を使いたいと思う。