昨日4月20日(日)は、富山市長選挙と富山市議会議員選挙の投票日でした。私は呉羽会館で投票を済ませてから、総曲輪のほとり座に向かいました。観た映画は、2022年に製作されたチリ・フランス合作のドキュメンタリー映画「私の想う国」です。
チリ出身のドキュメンタリー映画監督パトリシオ・グスマンが作ったこの映画は「2019年10月、南米のチリの首都サンティアゴで、地下鉄料金が30ペソ値上がりすることへの反対に端を発する民主化運動が突然動きだした。リーダーもイデオロギーもなく爆発的なうねりとなり、人口約1900万人のうち、若者や女性を中心とする約150万人もの人々が、より尊厳のある生活を求めてデモに参加した。この社会運動はチリの保守的・家父長的な社会構造を大きく揺るがし、やがて2021年に36歳という世界で最も若いガブリエル・ボリッチ大統領誕生に結実する」、「目出し帽に鮮やかな花をつけてデモに参加する母親や、家父長制に異を唱える4人の女性詩人、先住民族マプチェの女性として初めて重要な政治的地位についたエリサ・ロンコンら多くの女性たちへのインタビューを交えながら、劇的に変わりゆく母国チリの姿をダイナミックかつ詩的な映像美で描きだす」、「政党主導のもとに行われてきた旧来の政治運動とここで描かれる運動が決定的に異なるのが、女性や若者たちが中心であること以外に、特定のイデオロギーやカリスマ的なリーダーによって引っ張られたものではなく、自然発生的に自らの生活・人権・尊厳を守りたいという人々が集い、社会構造を揺るがすうねりとなっていったことだろう」というものです。
映画では、デモに参加した人たちが、こぶし大に割った石を警察の車両に投げるシーン、軍用車が水を撒いて市民の後退を促すシーン、火を放たれた警察車両が後戻りするシーン、催涙弾が左目に当たり視力をほとんど失った若い女性が語る言葉、道を埋め尽くした人々がジャンプしたり、フライパンやブリキ缶をリズミカルに壁に打ち付けたりしながらシュプレヒコールする様子、ガブリエル・ボリッチ大統領の就任演説で語った言葉「歴史的転換期を迎えた今を逃してはいけない。立ち上がれ。太陽はチリのために輝いている」など、印象的なシーンにあふれた映画でした。
私はこの映画を観た後本社で、溜めていた日経新聞を読み、再びほとり座で「早乙女カナコ子の場合は」を観てから、午後8時から行われるホテルグランテラス富山での「藤井ひろひさ選挙報告会」に雨の中、出かけました。7時40分ほどに会場に入りましたが、すでにほぼ9割の椅子が埋まっていました。そしてテレビモニターに映し出された8時のニュースで藤井市長の再選がトップニュースで伝えられると、拍手が沸き起こり、その後は来賓の祝辞やウグイス嬢からの花束贈呈、藤井市長の挨拶と続き45分間ほどで終了しました。
さて、翌日は新聞が休刊日だったので、本日の新聞で「富山市長に藤井氏再選」の記事を読みました。見出しの横には「投票率最低42.96%」とあり、本文には「2021年の前回選47.97%、17年47.84%を下回り市町村合併後で最低だった」とありました。19万人超が棄権したとも書かれていました。
私は住民票を18歳の時に大学のある仙台に移し、選挙権を得た20歳の時からすべての選挙に出かけています。今回の選挙では、当社の18歳と19歳の社員に、投票に行くようにとスマホでメールしました。そんな私ですので「投票率最低42.96%」には愕然としました。そして映画「私の想う国」を思いました。独裁政権下でのチリと、ニューヨーク・タイムズ紙の「2025年に行くべき52カ所」に大阪とともに選ばれた富山市とは、経済・政治状況や治安状況が全く違いますが投票率42.96%はないでしょう。7月の参議院選挙では70%ほどの投票率でありたいものです。
3月18日(火)、富山第一銀行のファースト・バンク青雲会研修会で高山市に出かけました。昼食の飛騨牛ステーキに惹かれての参加でしたが、ウイスキーのロックを飲みながら食べたステーキは柔らかく、トロリと美味しかったです。これで参加の目的は達成できましたが、もう一つ収穫がありました。それは、高山駅から貸し切りバスで出かけた飛騨産業株式会社の見学でした。
飛騨産業は1920年(大正9年)創業の木工家具を作る会社ですが、会社案内のパンフレットには、家具インテリア用品の製造販売、自然エネルギーによる発電事業、林業/製材業とあります。
会社に着くと、最初に、創業100周年の節目の2020年に代表取締役社長に就任した岡田明子社長(42)から、社長就任の2021年に制定した企業ビジョン「志」と、4つの価値観、「森と歩む」、「人を想う」、「技を磨く」、「時を継ぐ」について説明を受けました。また、従来から勤めている社員の反対もあったものの、企業ロゴを「キツツキマーク」から「HIDA」に変更した話を伺いました。その後、説明会場の一階上にある「飛騨職人学舎」を見学しました。この「飛騨職人学舎」についてホームページには、「伝統の心と技術を大切に受け継ぎ、世界中の人々に感動と喜びを与えることを生きがいとする、技能と人間力を兼ね備えた一流の木工家具職人の養成、及び次世代への文化継承に寄与することを目的に2014年より飛騨職人学舎を開校いたしました」とありました。
この日は、19歳の男性と23歳の女性が家具を作っていて、一人2分間ずつ名前、出身地、学舎に入った動機を語った後、2024年に制定した「飛騨職人学舎職人心得30か条」を交互に読み上げました。なかなか良かったので写真に撮りましたので、以下に記載します。
1.挨拶のできた人から現場に行かせてもらえます。
2.連絡・報告・相談のできる人から現場に行かせてもらえます。
3.明るい人から現場に行かせてもらえます。
4.周りをイライラさせない人から現場に行かせてもらえます。
5.人の言うことを正確に聞ける人から現場に行かせてもらえます。
6.愛想よくできる人から現場に行かせてもらえます。
7.責任を持てる人から現場に行かせてもらえます。
8.返事をきっちりできる人から現場に行かせてもらえます。
9.思いやりがある人から現場に行かせてもらえます。
10.おせっかいな人から現場に行かせてもらえます。
11.しつこい人から現場に行かせてもらえます。
12.時間を気にできる人から現場に行かせてもらえます。
13.道具の整備がいつもされている人から現場に行かせてもらえます。
14.おそうじ、かたづけの上手な人から現場に行かせてもらえます。
15.今の自分の立場が明確な人から現場に行かせてもらえます。
16.前向きに事を考えられる人から現場に行かせてもらえます。
17.感謝のできる人から現場に行かせてもらえます。
18.身だしなみのできている人から現場に行かせてもらえます。
19.お手伝いのできる人から現場に行かせてもらえます。
20.自己紹介ができる人から現場に行かせてもらえます。
21.自慢のできる人から現場に行かせてもらえます。
22.意見が言える人から現場に行かせてもらえます。
23.お手紙をこまめに出せる人から現場に行かせてもらえます。
24.トイレそうじができる人から現場に行かせてもらえます。
25.道具を上手に使える人から現場に行かせてもらえます。
26.電話を上手にかける事ができる人から現場に行かせてもらえます。
27.食べるのが早い人から現場に行かせてもらえます。
28.お金を大事に使える人から現場に行かせてもらえます。
29.そろばんのできる人から現場に行かせてもらえます。
30.レポートがわかりやすい人から現場に行かせてもらえます。
飛騨職人学舎は2年制で、授業料はなく、逆に毎月8万円の給料が支給されます。休みは 盆と正月だけで、携帯電話やスマホは預けさせられるとのことです。家族と連絡を取るには、23番の「お手紙をこまめに出せる人から現場に行かせてもらえます」を実践しなければならないのです。
それぞれの条文には解説がついています。少しだけ載せましょう。
11の、しつこい人から現場に行かせてもらえるのは、「貪欲に学ぶ姿勢でいることで、多くのことが学べるからです」で、21の、自慢のできる人から現場に行かせてもらえるのは、「熱意をもってこだわりを伝えると、相手に感動してもらえます」とあります。解説を読まないと、なぜこうしなければいけないかわからない条文がほかにもあると思います。気になる人は、私に質問メールを送ってください。写真の文字がぼやけていますが、判読してお答えします。
1月のコラム「趣味は読書」は、「わたしは、自分の趣味は仕事と読書と映画鑑賞だと思っています。映画鑑賞については、昨年の12月のコラム『126』で、昨年ほとり座で観た映画126本について書きました。読書については、昨年10月のコラム『読書の秋』と11月のコラム『井上ひさし』で書きました」と書き出しています。
昨年8月の「映画はほとり座で」では、これまで観た映画で印象に残った作品について次のように書いています。「どうしてももう一度観たいと思って1週間の間に2回観た『こちらあみ子』、今年2月に観た、孤独を抱えながら生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたフィンランドのラブストーリー『枯れ葉』、そして先日観た『東京カウボーイ』や、笑福亭鶴瓶も出ていた『あまろっく』、外国映画では、オードリーヘップバーンの『ローマの休日』や、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの『ひまわり』など、観てよかったと思った作品が圧倒的に多いです。」
さて、今年もせっせとほとり座に通っています。1月は11本観ましたが、2月は8本観ます。2月11日の祝日に2人の孫と一緒に観た「ロボット・ドリームズ」、帰り際に2人とも泣いていました。ラストシーンが切なかったようです。
この2か月で最も面白かったのは、今年最初に観た「侍タイムスリッパー」です。この映画は、3月15日~3月21日にアンコール上映します。2月7日の北日本新聞には「時代劇に愛を込めて 斬られ役60年、峰蘭太郎さん(黒部出身)『侍タイムスリッパー』出演」という記事が載っていました。アンコール上映は、わたしがこれまで経験したことがありません。社員の皆さんにお薦めです。
最も心に残った映画は、2月16日(日)に観た、表題の「お坊さんと鉄砲」です。チラシから概要を引用します。
時は2006年。国民に愛された国王の退位により、民主化へと転換を図ることになったブータンで、選挙の実施を目指して模擬選挙が行われることになりました。周囲を山に囲まれたウラの村で、その報せを聞いた高僧は、なぜか若い僧に銃を手に入れるように指示します。時を同じくしてアメリカから“幻の銃”を探しにアンティークの銃コレクターがやって来て、村全体を巻き込んで思いがけない騒動が持ち上がります・・・。
長編映画監督デビュ-作の「ブータン 山の教室」(’19)が世界中でサプライズヒットとなったパオ・チョニン・ドルジ、待望の監督第2作。前作では秘境ともいえる地で、伝統を守りながら生きる人々の暮らしを活写しつつ“学ぶ”ことによって未来は切り開かれていくのだと示した監督が、今回モティーフに選んだのは「選挙」。初めての選挙によって“変化”を求められ戸惑う村の人々の姿を、前作同様、温かい眼差しと飄々としたユーモアで紡ぎながら、本当の幸せとは何かを、観る者に問いかけます。
わたしは予告編で、若い僧が鉄砲を担いで道を歩いているところへ、銃コレクターが車で追いかけてくるシーンを観て、面白そうだと予定に入れましたが正解でした。面白いというより、考えさせられる映画でした。
Google Chromeでブータンを検索すると次のように書かれていました。南アジアにあるブータンは、発展途上国ながらGNH(Gross National Happiness:国民総幸福)が2013年には北欧諸国に続いて世界8位となり、“世界一幸せな国”として広く知られるようになりました。GNHは1972年、第4代のジグミ・シンゲ国王によって提唱され、GDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)ではなく「国民の幸福は経済成長よりも重要」との考えのもと生まれました。国民が皆一様に「雨風をしのげる家があり、食べるものがあり、家族がいるから幸せだ」と答える姿が報じられました。
観終わって、この映画のパンフレットを買い求めました。監督へのインタビューで、監督は、「GNH(国民総幸福)のような概念や、『無垢』といった資質を尊重することが、私がブータンの物語を世界と分かち合おうとしている理由です。」と語っていますが、やはりGNHを意識していたのだと分かりました。そして、仏塔の土台を作るために掘った穴の中に銃を投げ込むラストシーンになぜか涙が出ました。
パンフレットに書かれたエッセ-の一つにこんな文章がありました。ブータンで武器といえば、まっさきに思いつくのは弓矢か刀であるはずです。それなのに、お坊さまが考えた「争いの象徴」が「銃」であったのは、「海外から入ってきた争いの種」として「選挙」と「銃」を重ねて見たからかもしれません。
この文章で、「お坊さまと鉄砲(The Monk and The Gun)」という映画の題の深い意味を知りました。そしてわたしの涙が、争いの象徴の銃を放棄したことに共感したからだと思いました。
私が尊敬する中村天風師の教えは、人間として生まれてきたからには「積極的に生きようではないか」、苦しいことがあったからといって「下を向かずに前を向くべき」というポジティブ思考ですが、ブータンの国民の生き方にも、中村天風師の教えと相通じるものを感じました。
読書も映画も、わたしの成長のために欠かせないものだと、改めて思いました。