先月のこのコラム「富山大学で講義」では、富山新聞文化センターの寄付講座「現場の経営学:地域企業の経営者から学ぶ」の講師として、5月11日(水)の4回目の講座を担当することになったこと、そして、講義では最初に「アンパンマンのマーチ」の歌詞をスライドで映し出して、学生たちに「何の為に生まれて、何をして生きたいのか」と問いかけ、その後に、富山経済同友会が行っている中学校での課外授業で、私がこれまで使ってきたスライドを大学生向けにアレンジして「学ぶこと」や「働くこと」について考えさせ、後半で、当社の歴史や経営理念、土木事業の重要性などについて話そうと考えていると書きました。
講義のタイトルを「私の経営感」と定め、Macの keynoteで作成を始めたスライドは、11日の当日も、午前中も午後もMacにかじりついて何とか午後2時に完成しました。スライド枚数が60分の講義には多すぎる119枚となりましたが、何とかなるだろうと高をくくって、4時半からの講義に臨みました。60分講義し30分質疑応答というスケジュールでしたが、案の定60分ではとても終わらず、80分かけてようやくスライドが終了しました。
私は、今回の講義を、当社の施工検討会で用いているODSC(O=Objectives:目的、D=Deliverables:成果物、SC=Success Criteria:成功基準)を念頭に行いましたが、目的の一つであった「プレゼンテーションのためのkeynoteによるスライド作成の上達」においては、出来はまあまあながら、成果物であるスライドは枚数が多すぎたことによって、「講義時間内で内容のあるプレゼンテーションが出来た」という成功基準を達成できなかったと自己判断しています。
しかし、「学生たちに日本の将来を担う人間になってもらいたいという願いを込めた講義にしたい、そのためには、何の為に生まれて、何をして生きたいのかと考えさせる」という最大の目的と、「学生が真面目に聴いてくれた90分間の講義」という成果物に対する成功基準は、後日送られてきた感想文を読み、十分に達成できたのではないかと思いました。以下に2つの感想文を紹介します。
一つ目は「『ばい菌一匹でも、目的無くこの世に出てきたものは無い(中村天風)』この言葉がとても印象に残りました。私自身、何のために生きているのかということを考えます。しかし考えるたびに生きている意味なんて無いと思ってしまいます。より深い人生を送るために、何をすればいいのかを考えることがあります。しかし、いつも答えのないまま生きてきました。しかし今回先生の話を聞いて、その答えは見つかりませんでしたが、何か自分の中で変えるきっかけになった気がします。お金持ちになるとかではなく、自分が死ぬときに幸せだったと思えるように生きたいと思いました。」。そして二つ目は「自分では命のことについて経営学と絡めて考えたことはなかったので、いきなり導入部に出てきてびっくりしました。しかし、話が進んでいくことで、今回の講義のタイトルが非常に重要で関わり深いという風に思いました。林社長の経営感は、人を大切にしようという意志がしっかり前面にあると思います。そうやって生きる時間というものがより輝くのではないでしょうか。命の話はこれにつなげるための話としてだけではなく、これだけにしても大切ですが、林社長は私達に精一杯生きることを教えてくださいました。そして経営理念ではその裏づけをして訴えかけているようでした。僕は感動しました。」。
「アンパンマンのマーチ」を一緒に歌おうと促しても歌ったのは私だけであり、質問しても手を挙げる学生がいないので指名して発言させ、最後の質疑応答でも質問者は2人だけという90分間でしたので、どれだけ分かってくれたのだろうかといささか不安に思いながら講義を終えました。しかし、私が講義で伝えたいと思ったポイントが、多くの学生の感想文に取り上げられていましたし、ここに紹介した感想文を読んだ時には、「何の為に生まれて、何をして生きたいのかと考えさせる」という最大の目的に対する成功基準が達成されたと嬉しく思いました。
反省すべき点は幾つもありますが、全体としては満足できる講義が行え、脳みそに汗して作ったスライドは私の財産になりました。この後、感想文に書かれていた幾つかの質問に答えれば、今回の私の講義が完全に終了します。
4月13日に、富山新聞文化センターの寄付講座「現場の経営学:地域企業の経営者から学ぶ」が開講しました。これは、富山大学経済学部経営学科と富山新聞文化センター富山マネジメント・アカデミーの連携による富山大学経営学科経営学特殊講義として、今年度前学期に7月27日まで全15回、毎週水曜日の5限目に開催されるものであり、私は富山マネジメント・アカデミーの講師代表である中村哲夫さんの依頼で、5月11日の4回目の講座を担当することになりました。
中村さんは昭和17年生まれで、人文系の大学院での教育経験を活かし、上海の華東師範大学の客座教授として、新儒学という立場で「論語」と現代マネジメント学との接合を試みている歴史家ですが、中村さんとの初めての出会いは、2011年に北陸経済研究所の高齢者雇用調査で取材に来社された時でした。その時インタビューを受けた社員が、昨年の秋に瑞宝単光章を受章した田中正さんです。
この中村さんが2014年の8月に来社され、北陸の大学に通う大学生に、現場に根ざした経営のスペシャリストや県内の優良中堅企業の経営者を講師に迎え、企業の経営思想を理解し、富山の地域にとり中核となる人材育成を目的とした講座を実施したいと熱く語られました。そして、私に講師を引き受けて欲しいと言われるので、お引き受けすることにしました。
これが昨年の4月から富山新聞社内にある富山新聞文化センターで「富山マネジメント・アカデミー」として開講し、私は昨年6月13日(土)の第6回目に「自社の経営を語る」というタイトルで講義を行いました。
しかし私は、これまで富山経済同友会の課外授業講師派遣事業で、中学生に対して20回近く授業を行ってきましたが、大学生に対して行ったのは、かなり以前に富山女子短大で放課後に、家政科の学生数人に対して話したことがあるだけで、本格的な講義の経験はありませんでした。そこでこの講義では、パワーポイントで作ったスライドを使って、前半では当社の歴史、概要、業績の推移、そして施工実績や経営理念を話し、後半では、直前の6月10日に富山経済同友会の課外授業講師派遣事業として新湊南部中学校で行った課外授業「生きること、学ぶこと、働くこと」のスライドをほぼそのまま挿入して話しました。
中学生に対する私の課外授業のタイトルは、平成26年までは「学ぶこと、働くこと」でしたが、平成27年からは「生きること、学ぶこと、働くこと」と、「生きること」を加えています。それは、「新老人の会」を作った聖路加国際病院理事長日野原重明先生の言葉「いのちとは、自分の使える時間のことです」や「ただ生きるのではなく、どうよく生きるか、です」に共感を覚えたからであり、スタートのスライドは、日野原先生のこれらの言葉から始まっていました。しかし直近2回の課外授業では、「アンパンマンのマーチ」の歌詞「何の為に生まれて 何をして生きるのか 答えられないなんて そんなのは嫌だ!」を映し出すところから始まります。次に、バイキンマンとドキンちゃんを映しながら、中村天風の言葉「ばい菌一匹でも、目的無くこの世に出てきたものはない。」のスライドに移り、その後は日野原先生の言葉と続きます。
そこで富山大学での5月の講義は、最初に「アンパンマンのマーチ」の歌詞を映し出して、学生たちに「何の為に生まれて、何をして生きたいのか」と問いかけようと思います。その後は、中学生への課外授業でのスライドを大学生向けにアレンジして「学ぶこと」や「働くこと」について考えさせ、後半で、当社の歴史や経営理念、そして土木事業の重要性などについて話そうと考えています。
私はこの講義を単に、「企業の戦略や組織などの側面から、実際の経営活動において、経営者がどのように経営環境を見ながら、自社の経営状況を判断し、戦略や組織に関わる意思決定を行っているかについての講義」(寄付講座の趣旨)ではなく、学生たちに日本の将来を担う人間になってもらいたいという願いを込めた講義にしたい、そのためには、「何の為に生まれて、何をして生きたいのか」と考えさせることが大切だと思うのです。
今年のゴールデンウイークは、寄付講座の準備に時間が割かれ、ゆっくり出来ないことでしょう。
2月14日の日経新聞1面を見た途端、右下の記事の見出し「介護業の定昇導入 助成 最大200万円、人手確保狙う 厚労省」が目に飛び込んできました。
記事は「厚生労働省は従業員の賃金に定期昇給制度を導入した介護事業者に対する助成金制度を4月に設ける。制度を導入し、離職率が下がった事業所には最大で200万円を支給する。介護事業者の4〜5割には定期昇給制度がなく、職員は長く勤めても賃金が上がりにくい。年功に応じて賃金を上げる定昇を普及させ、人手不足が深刻な介護職員の確保につなげる。 助成金は3段階に分けて支給する。定昇制度を導入した時点でまず50万円。1年後の離職率が下がっていれば60万円、2年後に離職率が上がっていなければさらに90万円を渡す。(以下略)」とここまで読んで唖然とし、次に腹の底から憤りが湧いてきました。
私は2005年(平成17年)10月、朝日建設の全社員に対して、翌年4月から実施する、田中久夫著「社長として断固なすべき6つの仕事」の第四章「やる気にさせる賃金決定」を基本にした新しい賃金体系の導入についての説明文書を配布しましたが、その中で8項目の賃金体系の基本的考え方を示しています。
(1)年齢とか勤続年数とか学歴とか性別とかによって、賃金を差別しない。
(2)能力を発揮した人、努力した人、会社に貢献した人には、それに相応した給与や賞与を支給する。
(3)、(4)、(5) (略)
(6)一年で自動的に上がる定期昇給は廃止し、社会的な経済変動(物価変動)はベースアップで対応する。したがってベースダウンもありうる。
(7)本給(18ランク)の改定は昇格(個人の実績によって格付を上げる)による昇給(本給のみ)、降格(個人の実績によって格付を下げる)による減給(本給のみ)を重点にする。
(8) (略)
その後、多少の修正は行いましたが、この基本は変えていません。
そもそも定期昇給制度とは、企業が従業員の昇給を実施する際に、従業員の年齢や勤続年数を基準として、一般的には年齢が1歳、または勤続年数が1年上がるごとに基本給はアップします。このことから毎年自動的に定まった金額へと昇給されていく仕組みのことで、昭和初期から多くの日本企業においての昇給の制度として導入されてきました。
この背景には、一つには、生計費は年を追い家族人員がふえるにつれ上がらざるをえないから、賃金水準の低かった時代には賃金がこのような形をとらざるをえなかったということ、二つめには、技術革新が遅かった時代には、工場で働く技能職は、年齢が上がり勤続年数が上がれば、仕事の習熟度が高まり能力も高まり仕事の成果も上がるという関係があったのです。
しかし今の時代に、年齢が上がり勤続年数が上がれば、仕事の習熟度が高まり能力も高まり仕事の成果も上がるとする年功序列制度を是と考えているのは、定期昇給制度というぬるま湯にドップリつかっている役人くらいでしょう。その霞が関の厚労省の役人が、離職率を下げるために定期昇給制度を導入するよう助成するというのです。
入所者3人を相次いで転落死させた川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の介護職員は、殺人事件を起こす前に解雇すべきだったのです。私はあさひホームの介護職員に、「介護職に必要な3つのK」として、?お年寄りに対する共感力、?職場の仲間との協調・協力性、?介護や医療知識や技術の習得に対する向上心の3つを要求しています。これらに欠けた介護職員は、結果的にあさひホームを去っていきました。人材不足に悩む介護現場では、問題がある職員でも辞められたら日々の業務が回らなくなるということで、管理職が目をつぶりその職員を辞めさせられないという状況は分からないでもありません。しかしその結果、私の介護事業に対する経営理念が失われるのなら、事業を止めたほうがましだと思っています。
4月の給料改定に向けて、これから朝日建設でも朝日ケアでも賃金検討会を行いますが、厚労省の愚策を反面教師にして、民間企業としての賃金制度、賃金体系は時代の変化に対応し、また会社の経営理念に照らしてどのようにあるべきかを念頭に議論したいと思います。