2014.12.28

来年の介護保険改定に異議あり

2000年から始まった介護保険制度では、介護サービスを提供する事業者が対価として受け取る公定価格の介護報酬が3年ごとに見直しがされ、来年は5回目の改定である。

 2003年4月の第1回改定では、全体で2.3%引き下げられ、2006年改定では、全体で3%引き下げられた。そうした中で、重労働の割には給料が安いという介護業界の実体が世間に知れ渡り介護職員のなり手が減少し、それに慌てた厚生労働省は2009年の改定において全体で3%引き上げた。時の厚生労働大臣が今の東京都知事の舛添要一さんで、当時彼が「3%の引き上げで、介護職員の給料は月1万5千円上がる」と自信満々に話していたことをシッカリ覚えている。しかし、赤字の補填に回したところもあれば利益の積み上げに回したところもあって、実際にはそうはならなかったからだろうと推察するのだが、「介護職員処遇改善交付金」を創設して、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して、2009年10月から平成2011年度末までの間、計約3,975億円(全国平均で介護職員(常勤換算)1人当たり月1.5万円に相当する額)を交付したのである。

 そして前回の2012年4月の改定で報酬全体を1.2%引き上げたが、このときにできたのが介護報酬に組み込まれた介護職員処遇改善加算であり、朝日ケアでは「笑顔手当」として支給している。(2012年5月の「レモン」コラム「笑顔手当」参照)

 さて、来年の改定を控え、今年の4月29日の日経新聞に嬉しい記事が あった。見出しは「介護報酬を引き上げへ15年度、人手不足解消狙う」で、「政府は2015年度に介護サービスの報酬を引き上げる検討に入った。介護福祉士の待遇を改善し、人手不足を解消する狙い。ただ、介護の費用は年々、膨張が続く。必要な人に必要な介護を行き届かせるには、給付の無駄の排除や事業者のサービス向上も課題になる。」、そして「09年度の改定では、介護職員の処遇改善などを理由に初めて報酬全体を引き上げ、以後増額の流れが続いている。今回の焦点は、人手不足が深刻な介護の現場で、職員の待遇をどう良くするか。28日の会合でも改善を求める声が相次いだ。介護業界は離職率が 10%台後半と高く、人手不足が続く。いわゆる「団塊の世代」が75歳以上になる25年度までに、職員数を今の約150万人から約250万人に100万人増やす必要があるとの試算もある。賃金面など「魅力ある職場」に環境を変えなければ、この状況に対応できない。具体的には、賃上げに取り組んだ事業者への報酬を増やす「介護職員処遇改善加算」の拡充策が浮上している。厚労省は加算措置を拡大し、さらなる賃上げを促す考え。」と書かれていた。

 そして、9月28日の日経新聞は「介護職員賃上げへ15年度、月1万円人手を確保賃金以外の介護報酬を抑制」の見出しで、本文には「12年度の介護報酬改定で導入した処遇改善加算制度を拡充する。」とするものの「賃金以外に払う介護報酬は抑え、介護を支えるための保険料や税の負担急増を避ける方向だ。」とある。私は処遇改善加算制度には制度としての欠陥があると思っているが、現状では当面の賃上げには有効だと思っている。しかし「賃金以外に払う介護報酬は抑え」が曲者(くせもの)だった。

 10月9日の日経新聞の見出し「特養ホーム利用料下げ来年度、政府検討高収益事業の介護報酬改定デイサービスも対象」に驚いた。朝日ケアの大事な収入源であるデイサービスの介護報酬単価が下がるのでは、今でも収支トントンの経営が赤字に陥ることが容易に予測されたからだ。

 記事の本文には「政府は特別養護老人ホームやデイサービスの利用料金を2015年度に下げる検討に入った。介護サービス事業者が受け取る介護報酬の改定で、サービスの単価を引き下げる。単価が下がれば事業者の収益は減り、利用者の料金は下がる。介護の現場で深刻な人手不足の解消に向け、処遇改善への加算などを拡充する一方で、利益率の高い事業の単価を下げて歳出の効率化をめざす。」とあり、厚労省による今年3月時点での経営実態調査では、特養の利益率が8.7%でデイ サービスのそれが10.6%だとし、また、特養には毎年の黒字をため込んだ内部留保が総額2兆円あるとの試算があると書かれている。

 さらに、週刊ダイヤモンド11/18の記事を読み、驚きが怒りに変わった。10月8日に、財務相の諮問機関が介護報酬を6%程度引き下げるよう厚生労働省に求めたとあり、また、財務省が、介護の全サービスの利益率の加重平均が8%程度で、中小企業の売上高純利益率の平均2.2%より高いという理由で、利益率の高い事業の単価を下げるように主張しているという。さらに、財務省は「6%引き下げは、あくまで介護サービス平均」と言い、引き上げるサービスがある一方で、6%以上引き下げられるものもあるとしているとのことだ。

 高齢化の進展で介護給付費は25年度には現在の倍の21兆円に増えると予測される現状では、巷で噂されている悪徳事業者の経営にメスを入れることは必要だ。しかし、中小企業の平均利益率2.2%より高いという理由で介護サービス単価を引き下げるとは、まるで社会主義経済ではないか。資本主義経済においては、経営努力をして利益率を上げ利益を確保することは当然であり、推奨されるべきことである。トヨタ自動車の15年3月期の連結業績予想では営業利益が2兆5千億円とされているが、トヨタ自動車が儲け過ぎていると思うより、「さすがトヨタ。シッカリ利益を上げ、水素で走る燃料電池自動車MIRAIを造るだけのことはある」と思う人の方が多いだろう。利益率は各企業で違っていて当たり前であり、その平均値をサービス単価切り下げの根拠にするのは、顧客であるお年寄りやそのご家族に満足して頂きながら、同時に企業を継続するためにちゃんと利益を上げようという、まともな介護事業経営者なら普通の考え方に冷や水を浴びせるようなものだ。

 処遇改善への加算などを拡充して人手不足を解消しようとしても、介護事業者の事業自体が悪化して介護職員の処遇が引き下げられたり、経営意欲を失って廃業や経営破たんしたりするようになれば、本末転倒である。こんな自明のことが、財務省や厚生労働省の役人には分からないのだろうか。腹立たしい限りだ。