2015.02.25

北陸新幹線開業

来月3月14日に北陸新幹線の長野―金沢間がいよいよ開業するが、このコラムが配布される2月25日は、「北陸新幹線開業あと17日」である。

 私自身は北陸新幹線の工事が着工されても開業にはそれほど大きな関心は無かったのだが、富山駅の新駅舎にライトレールが乗り入れるための富山駅南北接続軌道施設工事に、当社が昨年4月下旬から乗り込んだことで、隣接する駅前広場の工事も含め関連工事が開業に間に合うだろうかと、この頃から俄然気になり始めた。そして、開業前日の3月13日にリニューアル記念式典が行われることが決まっている富山県民会館の改修工事に伴う外構工事を受注し、施工検討会に参加して土日も祝日も返上の厳しい工程を知り、新幹線開業日の3月14日が脳裏に刻み込まれた。

 この北陸新幹線の開業効果を観光振興、地元産業の活性化、新たな企業誘致、定住・半定住等につなげたいと、行政も経済界も期待している。地元紙の北日本新聞や富山新聞でも、新幹線開業がらみの記事を見ない日の無いここ数ヶ月であり、県民が開業に向けて各方面で様々な準備をしている様子が良く分かる。しかし、開業効果を最も享受するのは終着駅の金沢であり、富山が開業効果を実感できるためには、果たして今のような準備で良いのかと思わせられたのが、日経新聞の2月14日と16日の記事であった。

 2月14日(土)の「日経プラス1」の1面「何でもランキング」での「何でも」は「新幹線でもっと身近に 金沢のお土産」だった。惣菜系の1位は加賀麩不室屋の「ふやき御汁 宝の麩」で、お菓子系の1位はまめや金澤萬久の「みたらし豆」だったが、私が食べたことのあるのは、惣菜系では1位の「宝の麩」だけで、お菓子系では、2位の「じろあめ壷入り」、6位の「麩万頭」と10位の「柴舟」だけであった。

 もうすぐ富山と高岡で、「エンジン01」文化戦略会議が「オープンカ レッジ」を開催するが、会議構成メンバーの一人である富山市出身で博報堂のクリエイティブディレクター太田麻衣子さんが昨年末の富山での講演会で、博報堂の女性社員十数人に北陸新幹線が開業したら行ってみたいところや食べたい物を尋ねたら、石川県のほうが富山県より圧倒的に上位だったという話を思い出した。全国紙でも、北陸新幹線開業でまず取り上げるのは金沢だという現実を、「日経プラス1」で思い知らされた。

 さらに追い討ちをかけたのが、翌々日2月16日の1面に掲載されているコラム「春秋」だった。「ある老舗で寄せ鍋をつつき、丸谷才一さんは驚嘆した。」で始まるこのコラムは、「丸谷さんだけでなく、泉鏡花や室生犀星、吉田健一と名だたる文人が金沢の味や城下のたたずまい、伝統工芸を賞賛してきた。住んだ経験のある五木寛之さんはエッセーに、ここは「目に見えない魔力のようなもの」が宿っていると書いた。」とあり、こう書かれては富山は金沢にチョット太刀打ちできないと思った。妻にこのコラムの話をしたら、「金沢はやっぱり歴史があり、土塀が続く長町の武家屋敷なんかもいいわ」と言う。確かに歴史を感じさせる街並みや、細やかな気遣いがされた料理は富山には無い。

 富山県には、近年台湾からの観光客がたくさん訪れるようになった立山の雪の大谷や黒四ダムなど魅力的な観光地はあるが、金沢のように通年で訪れる所ではない。私は常々富山は、魚も酒も水も空気も日本一美味しいと思っているが、先日ある人から「富山の寿司は寿司ではない。刺身とご飯だ。」と言われ、以前、金沢の有名な寿司屋で食べた寿司の味を思い出した。富山で食べる寿司とはどこか違っていたが、確かに、魚とご飯とが一体になった味わいがあった。

 観光なら、全国それぞれに訪れてみたいところがある。味にしても、その土地ならではの味がある。場所も味も今更変えられるものではない。しかし、富山県人に足りないといわれる「もてなしの心」は、意識すれば高められるのではないだろうか。

 先週、新潟に出張するために11時頃JR富山駅で海産物を扱っている店に入った。以前何度かこの店で結構美味しい握り寿司を買っていたので、この時も昼食用に握り寿司を買おうとしたのである。店のおばさんに寿司は無いのかと聞くと、未だ配達されていないとの返事。何時ごろ届くのかと聞けば、12時過ぎとのこと。「それではお昼時に食べたい人が食べられない。配達をもっと早めてもらえば良いのに、新幹線も来ることだし」と言ったら、その返事は「配達時間は決まっとっから仕方が無い。それに新幹線が来るとき、この店はもうやっとらんからいいが」。腹が立った。こんな対応をする富山県人ばかりではなかろうが、「もてなしの心」が微塵も無い応対であった。

 観光振興、地元産業の活性化、新たな企業誘致、定住・半定住等の促進は、新幹線開業によるなど時間的早さ、高速道路とのアクセスの良さ、居住環境や子育て・学習環境の良さなどハード面の整備だけではだめだと思う。また訪れたい、しばらく滞在してみたい、住んでみたいと思わせるものが無ければいけない。それは富山に来た人一人ひとりにとっての個別の想い出であり、その人にとっての物語だと思う。店員さんだけではなく、道を尋ねた人、タクシーの運転手さんの、そして大人にも子供にも誰にでも感じられる「もてなしの心」、「思いやりや気遣いの心」が想い出となり、富山ならではの体験が物語になるのだろう。

 北陸3県の県民性を表す言葉として、「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師」というのがある。生活にぎりぎりまで困窮したら、富山県人は強盗を働き、福井県人は詐欺をしてでもしぶとく生きていくのに対して、加賀百万石の金沢の人は、なすすべもなく乞食になってしまうというのだ。強盗と言われて良い気分はしないが、富山県人の県民性である勤勉性を例えたものだと思えば、腹も立たない。北陸新幹線開業を契機に、勤勉性の土台の上に、他人に対する「もてなしの心」、「思いやりや気遣いの心」を積み重ね、旅する人に物語を作ってもらえるような工夫をしたいものだ。