2020.12.25

読書の薦め

 座談会の冒頭に挨拶された高志の国文学館館長の中西進先生は、「今回の高山さんの著書は骨太の作品であり、日本には長編小説を書いた作家は少なく島崎藤村くらいだが、高山さんは日本には稀有な長編作家になるのではないか。今日の聴衆は高山さんの同伴者です」と話され、座談会がどのように進行するのか興味が湧きました。


 11 月 29 日の日曜日に、高志の国文学館主催の座談会「芥川賞受賞作『首里の馬』を読む」に参加しました。著者の高山羽根子さんが富山県生まれであることは芥川賞受賞を報じた新聞記事で知っていて、富山生まれというだけでとても親近感を覚え申し込みしたのです。

 
 座談会出席者のお一人の高志の国文学館事業部長の生田さんが作られたであろう当日配布されたA4版1枚の資料には、表面に構成とあらすじ、裏面に作品の引用が書かれていて、著書を半分くらいしか読み進んでいなかった私にはとても参考になりましたが、目を引かれたのは裏面の最初に書かれた言葉でした。「小説は活字になった瞬間から読者の解釈に委ねられる運命にあります。正しい解釈というものはなく、あるのはあなたの解釈、あなたの読みです。本座談会での出席者の発言もひとつの読みに過ぎません。三人の発言が皆さまの読解の手がかりになれば幸いです。」という言葉で、座談会の中で高山さんの、「デビュー当時から、たくさんの人にたくさんの読み方をしてもらったことは、自分にとってついていること。物語の中にいろんなものを埋め込んだ。どう掘り返しても、掘り返さなくても読めるように、掘った深さによって全然違うものになるように考えて、これまでも書いている」との発言に通じると思いました。


 そして思ったのが、長男が北日本新聞に毎月1回連載しているコラム「うれしい出会い、あれこれ」の9月25日のタイトル「悩んだ座右の銘」で紹介していた、民藝の生みの親、柳宗悦の言葉「見テ知リソ 知リテナ見ソ」でした。息子のコラムを引用すると「直訳すると『見て知りなさい。知って見てはいけない』『物を見る時に、知識に頼って見てはいけない。まずその物自身を見て、本質を知りなさい』という意味が込められています。」


 私の母は絵や彫刻などが好きでしたが、展覧会では見た瞬間に良いと思った作品以外には目を向けませんでした。経済的ゆとりが出るようになってから母が購入した絵や彫刻について、購入先の画廊のご主人は、「お母さんが買われた作品は、どれも今では3倍から4倍の値段になっています」と、後日話してくれました。息子も祖母の血を引いて、民芸店「林ショップ」で扱う商品は、どれも自分が好きな品物だけです。まさに「見テ知リソ」です。


 それに引き換え私は「知リテ見ソ」だと思いました。有名な画家の展覧会だからということで出かけ、絵を見て値段はいくらかな?と値札を見たり、考えたりします。そして、この作家の作品ならこの値段はお値打ちだと思って購入します。読書にもその傾向があり、無名の作家の本は読んだことがありません。もっとも、国内外の著名な作家の作品も、そんなに読んではいませんが。


 しかし、美術の鑑賞には生まれ持った感性が大きく働くと思いますが、読書には「正しい解釈というものはなく、あるのはあなたの解釈、あなたの読みです」と今回の座談会で聞き、本を読むきっかけは、有名な作家だとか、文学賞の受賞者、あるいは新聞での書評が良かったということであっても、本に対する感性など気にせずに読めばよいと考えると、これまでのように、この本の主題は何かな?と考えたりせずに、もっと気楽に読めそうです。


 まず「首里の馬」を読了した後は、枕元に積んである本を1冊ずつ読んでいこうと思います。最初は、民芸店を営む長男が好きな鳥取の陶芸家の山本教行さんの著書「暮らしを手づくりする」を読もうと思います。長男は先月、山本教行作陶展を自分の店で行いましたが、その時山本さんにいただいた本です。その次は、英国人の知人の水彩画を見に行った黒部市美術館で、別室に黒部市出身の詩人田中冬二ゆかりの品が展示されていて、帰りに受付で求めた「田中冬二著作集」、そして、大門での北陸天風会の研修会会場で購入した、中村天風の「心を研ぎあげる」にしましょう。新聞の書評を読んで購入した内田樹(うちだ・たつる)の「日本習合論」は、文字がぎっしり詰まった難しそうな分厚い本なので、いつ読めるかわかりません。


 昨年の読書週間中の富山新聞のコラム「時鐘」に、次のように書かれていました。“「今朝食べたものを言ってみたまえ。君がどんな人間か当ててみせる」との言葉がある。読書に例えるとこうなる。「読んだ本を言ってみたまえ。どんな人間か当ててやろう」。本も食物も栄養になる点では同じ。よく噛んで食べよう。次の子どもの疑問が分かりやすい。「本を読んでもほとんど忘れてしまうのになぜ読むの?」。先生が答える。「毎日何を食べたか忘れても君は大きくなっているね」。読書週間に思い出す話である。” 高山さんは、こうも述べていました。「読者が読んでくれて作品は完成する。絵画も同じで、見てもらって完成する」


 社員の皆さんも、気軽に本に触れ、作品を完成させてみませんか。栄養にもなりますよ。