2014.10.30

ふたつの国の物語 ― 土木のおはなし ―

私は平成24年に富山市建設業協会の会長に就任し、2年目の昨年の予算に社会貢献活動費として新規に100万円を計上して、富山市が備蓄している災害用簡易トイレを使う際の仕切用簡易テント50基を富山市に寄贈しました。
 3年目の今年、社会貢献活動として昨年同様の富山市への簡易テント50基の寄贈に加えて、私の提案で、絵本「ふたつの国の物語 ―土木のおはなし―」を富山市内の全中学校と図書館に贈ることにしました。
 この提案は、私が東京の理工図書株式会社の女性社長 柴山斐呂子さんと出会った縁から生れたものです。
 20年以上前から続いている全国の建設業経営者20人くらいのグループ『建設みらい』の定例会が、昨年12月に東京の日刊建設通信新聞社の会議室で開催され、新会員として柴山さんが紹介されました。自己紹介で、先代社長であった夫の急逝を受けて専業主婦から社長に就任したことや、理工図書が出版している大正11年創刊の月刊「土木技術」の内容を、土木技術者をはじめ、学生、子供を持つお母様方にも読んでもらえるよう、来年から一新すると熱く話されました。
 そして今年4月、柴山社長が想いを込めて発行したであろう絵本の紹介記事が、日刊建設通信新聞に掲載されました。それが「ふたつの国の物語―土木のおはなし―」(写真1、2)だったのです。この記事は次の通りです。

写真1
写真2

『ランドスケープ・アーキテクトの小川総一郎氏による子ども向けの絵本。文明の進んだシブの国と、未開のアトの国。立派なインフラが整備されたシブでは若者の土木離れが進み、アトから安い労働力を受け入れることに。アトの若者は熱心に働き、技術を身に付けて大きな工事も任されるようになる。その先に待っているのは、いま日本で問題になっている事態そのものだ。絵本という素材を通し、土木産業の抱える構造を端的に示す。暖かなタッチの水彩画で描かれる現場は、輝いて見えるのだが…。

 土木はあらゆるライフラインを整備するために必要なだけでなく、自然との共存もテーマになる。水の流れ、食物、空気の浄化などを自然環境が担っていることは、誰でも知っている。これまで土木は自然を破壊し、征服する行為と一般には思われてきたが、本書では、自然を再生し、都市に取り込んでいくこともできる技術であると主張する。担い手不足が深刻化しているこの業界に必要な手立ては、仕事の意義と可能性をしっかりと若い世代に伝えていくことだろう。絵本では「高い給料」がポイントにもなっているところも重要な視点だ。』

 早速この絵本を入手して読みながら、建設業を知ってもらうのも社会貢献活動であると思ったので、担当委員会に諮ったところ、前編の絵本は小学生でも読めるが、後編の3篇の随筆(写真3、4、5)はそれぞれ素晴らしいけれども小学生には難しいだろうということで、中学校に贈ることになりました。

写真3
写真4
写真5

贈る相手先と数を検討の結果、市立中学校全26校に167冊とその他の中学校2校と支援学校6校に21冊、そして富山市内の図書館とその分室に50冊の合計238冊としました。
 今、日本の建設業界は危機的な技術者・技能者不足です。その対策として、国土交通省と建設業5団体が5年以内に女性技術者・技能者を現状の10万人から20万人に増やす数値目標を設定しました。しかし、平成3年からこれまでに土木部と電気部に延べ16人の女性技術者を採用してきたわが社ですが、現在頑張っている女性技術者は土木部のTさんとKさんの2人だけで、ほとんどが結婚を機に退職したという現実を知る私には、この目標のクリアは非常に厳しいと思われます。
 また、政府は2020年東京五輪に向け、外国人技能労働者の受け入れ期間を2年延長して最長5年としましたが、これも抜本的な対策とは言えず、むしろ労務費単価を下げることになりはしないかと危惧します。
 10月6日に富山市の教育長に絵本167冊の目録を贈呈(写真6、7、8)しましたが、私は教育委員会を通じて絵本を配布するだけではこの活動の効果が小さいと考え、10月15日の富山市中学校長会の席で、 26人の校長先生方にこの絵本贈呈の趣旨は、生徒がこの絵本を読んで土木の仕事について理解し、日本の明日を担う土木技術者を目指してもらうことであり、先生方には生徒の進路指導に役立てていただきたいと強く訴えました。

写真6
写真7
写真8

また、10月20日に国土交通省本省の吉田建設流通政策審議官や北陸地方整備局の野田局長など幹部職員の皆さんや、富山、石川、福井の 3 県の土木部幹部の皆さん、そして全国建設業協会など関連団体幹部の皆さんが出席して開催された北陸三県建設業協会ブロック会議での「建設業への入植促進に向けた施策の展開について」の議題の際に、私は次のように発言しました。北陸地整から回答があった、産学官の連携による「北陸建設界の担い手確保・育成推進協議会(座長・野田徹北陸地方整備局長)」の発足と、その構成メンバーに大学の工学部の教授や工業高校の校長が入っていることは評価できるが、小中学校時代から土木に関心を持たせることも大切だとして、富山市建設業協会の絵本贈呈の話を披露しました。
 人材の確保育成は、一朝一夕にはできません。これからも、富山経済同友会が行っている課外授業でこれまでより時間をかけて土木の説明をするなどあらゆる機会をとらえて、将来を見据えた土木の人材育成、発掘活動を続けていく覚悟です。