2010.01.01

暖炉と薪ストーブ

北代の老人介護事業所「あさひホーム」のデイサービスフロアには、中央に暖炉が設置されていますが、これは、ホームの設計をしてもらった東京の設計事務所デサインショップ・アーキテクツ社長の染谷正弘さんの提案によるものです。染谷さんは、家族のように暮らす家、それが「あさひホーム」であり、その中心に火はかかせないと考えました。そこで、染谷さんが懇意にしている鉄の造形家・松岡信夫氏に、暖炉を造っていただきました。
 しかし「あさひホーム」が開業した平成15年の冬、暖炉は使われませんでした。初めて介護スタッフが薪に火をつけたところ、煙突から風が逆流してきてフロアに煙が充満してしまいました。私も試みましたがうまくいかず、厨房で働く給食会社の職員さんから、煙くて目が痛くなるとか、厨房に灰が入ってくるとかのクレームもあって、結局、最初の冬、暖炉は使われなかったのです。
でも、わざわざ鉄の造形家・松岡信夫氏に依頼して造ってもらった素敵な暖炉がインテリアとしてしか機能しないのは許せないと、平成17年に入っての2年目の冬に火のつけ方を変えてみました。まず炭に火をつけて、その炭火で薪を燃やしたらどうかと考えたのです。母が昭和48年のオイルショックの時に大量に買い込み自宅の倉庫にしまっていた炭俵をホームに運んで暖炉の横に置き、炭俵から取り出した炭を火起こし器(片手鍋の底に穴を開けたようなもの)に入れ、デイサービスフロアから一番離れたグループホームのキッチンのガスコンロにかけて火をつけます。炭が真っ赤になったところで火起こし器を十能(ジュウノウ:炭や灰を運ぶ小型のスコップ)に載せて、グループホームとショートステイの長い廊下をゆっくりデイサービスフロアの暖炉まで運びます。それから、燃え盛っている炭を暖炉に入れ、その上に薪をくべ、煙突についている空気の流れる量を調節するダンパーを全開にすると、上手い具合に薪が燃えてくれました。この方法で暖炉に火を入れた最初の日に、デイサービスをご利用に来られたおばあちゃんが、玄関に入った途端に「ああ、懐かしい匂いがする」と言われ、暖炉の前の椅子に座って「芯から体が温まる」と喜ばれました。その日は灰の中にサツマイモを入れて、とても美味しい焼き芋を作りました。お餅も焼きました。

火起こし器
火起こし器に炭を入れてガスコンロで着火
十 能

その後は、炭をバーベキュー用の着火材に替えたり、更には小型のバーナーを買って、直接小さな薪を燃やしたりと火のつけ方をいろいろ試しています。しかし、昨年までは、始業時刻の前に介護スタッフに火を起こしてもらうのは負担を掛けることになると思い、火を起こすのは私が朝ホームに寄ったときだけに限られ、暖炉が活用されているとは言いがたい状況でした。今年になって、デイサービスの男性スタッフに火の起こし方を伝授したところ、先週の木曜日の1月14日に昼食をとりに出かけたら、暖炉に火が入っていました。暖炉前のテーブルで食べ始めたところ、「社長さん、この場所が一番いいわ。暖炉で体が温まって」、「薪の火を見ると心が和みます」、「昔はご飯を炊くのもお風呂を沸かすのも薪でしたね」と同じテーブルのおばあちゃん達から言われました。そこでひらめいたのが、「あさひホーム吉作」に薪ストーブを設置することでした。前日は「あさひホーム吉作」で昼食をとったのですが、床暖房設備の無い1階のデイサービスフロアにおられたKさんが「足元が寒いわ」とおっしゃっていたのを思い出したからです。向野介護部長からも、1階が寒いと言って帰りたがるおじいさんが、床暖房のある2階グループホームフロアのリビングルームに行くと、帰ると言われなくなるという話を聞いていました。平屋造りの「あさひホーム」の全館床暖房がご利用者さんに大変喜ばれ、北陸の介護施設に床暖房は必需設備だと確信していたので、2階建ての産婦人科クリニックを平成18年に「あさひホーム吉作」に改修する際にも、1、2階とも床暖房にするつもりでした。しかし、苦しい台所事情から、居室がある2階だけしか床暖房に出来なかったのです。 吉作に暖炉ではなく薪ストーブをと思ったもうひとつの理由は、昨年末に出かけた岩瀬でのピアノコンサートで、私の隣で聴いていた富山市四方の薪ストーブ屋さんを思い出したからです。北代での昼食を終え本社に戻り、コンサートを開いた天下堂洋品店の主人に電話し、彼の知人であるストーブ屋の鍋島さんから私に連絡してくれるよう依頼しました。早速、翌々日の土曜日に鍋島さんに吉作に来てもらって薪ストーブを置く場所をアドバイスしてもらい、翌日の日曜日には向野介護部長と一緒に鍋島さんが月岡に所有する家に出かけ、設置してある沢山の薪ストーブを見学しました。薪ストーブから出る遠赤外線が効率よく家の躯体や人間の体を温めるので、窓を開けて外の冷気に当たっても窓を締めると体が温かくなったままなのを実感しました。そして、鍋を掛けて煮物も出来るノルウェー製の薪ストーブに決めました。お金はかかりますが、吉作のデイサービスをご利用になるお年寄りが、薪の炎を見たりおでん鍋の匂いをかいだりしながら、遠赤外線の柔らかな暖房で、心地よい幸せな時間を過ごされる日が待ち望まれます。

鍋島宅
薪ストーブ
薪ストーブ

床暖房にしなかったことが薪ストーブの導入になったのですから、「災いを転じて福となす」になったのかと思います。