2011.02.01

ワーク・ライフ・バランス

 新年式では毎年5つの経営指針を発表しているが、今年度の経営指針の4番目は“ワーク・ライフ・バランス(work life balance)「 仕事と生活の調和」の推進”である。
「ワーク・ライフ・バランス」を指針のひとつとした大きな理由は、先日2月15日に、名古屋市主催の「中小企業 活き・イキ人材活用セミナー」で私が行った講演のタイトルが、「私が考えるワーク・ライフ・バランスとは 〜踏み出そうワーク・ライフ・バランスの第1歩〜」であったことにある。
昨年の11月末に、名古屋市役所の担当者から送られてきた講演依頼文には、前述のタイトルが仮題として記されており、講演内容としては、「ワーク・ライフ・バランス」を企業の中で推進していくには、どこから手をつけたらよいか、どのように社員に利用してもらえばよいかと悩む中小事業主や人事担当者が少なくない。そこで、社長自身の「ワーク・ライフ・バランス」に対する考え方を示したうえで、実際に朝日建設で取り組んでいる各種ワーク・ライフ・バランス施策を紹介してほしいという要望であった。
インターネットのフリー百科事典Wikipediaには、『2007年(平成19年)末、政府、地方公共団体、経済界、労働界の合意により、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定され、現在、官民を挙げて様々な取組が進められている。』とあり、「ワーク・ライフ・バランス」は、割合に新しい政策である。
しかし、当社では働き方に関する取り組みとして、1991年(平成3年)から女性技術者の採用を始めていて、1994年(平成6年)には、雇用促進事業団が発行する機関紙「つち」の「わが社の小さな改善 大きな成果」のコーナーに、「人は資源」と題して選択月給制やリフレッシュカーの開発などとともに女性技術者の採用が取り上げられた。
1997年(平成9年)には、北日本新聞社の企業グランプリ富山の経営部門賞を受賞(記事1、記事2)したが、リサイクルアスファルトプラントやカラー舗装などとともに、女性技術者の採用拡大が受賞理由であった。
1998年(平成10年)には、私が書いた「わが社の輝く女性技術者たち」が建設大臣顕彰を受賞し、平成12年度には、女性労働者の能力発揮を促進するための積極的取組(ポジティブ・アクション)について、他の模範とも言うべき取組を推進している均等推進企業として富山労働局長表彰を受賞している。
そもそも私が女性技術者を採用しようと考えたのは、男性の技術者の時間外労働時間の多さを何とか解消したいという思いからであった。前述の「つち」にそのこと を書いているので、書き写してみる。
「時短を進めようとするときに一番問題なのが、会社で最も残業の多い土木工事課の男性技術職社員の長時間労働をどうするかでした。そこで女性でもできる仕事、あるいは女性のほうが上手にできる仕事があるはずだと考え、平成3年4月に高校の普通科の新卒女性を採用しました。この女性は3年後、写真撮影や出来高測量から、補修など小さな工事の現場代理人もできるようになりました。(後略)」
当社がこれまでに採用した女性技術者は、土木14名、電気2名だが、現在も勤めているのは、土木工事部の2名と、総務部に異動した1名、そして、ユニバーサルデザイン室で、福祉用具レンタルの営業をしている1名のあわせて4名だけである。有能な女性技術者ほど、結婚、出産後に保育所への送迎などで周りの社員に迷惑をかけるのではないかという思いから、結婚を機に退職していった。そこで講演のタイトルをきっかけに、今後は、事務職の女性のように、子育てしながらも働き続けられるようにしなければいけないと考え、今年度の経営指針に「ワーク・ライフ・バランス」を掲げたのだ。
ある経営コンサルタントは、「“企業は人なり”というが、中小企業においては人とは社長自身である」と言っていたが、その通りだと思う。「ワーク・ライフ・バランス」に関しても、私が最も関心を払わなければいけないだろう。そこで、男性の残業や休日出勤に対しては、私が週間スケジュールをチェックするとき、これまでのコメントに加えて、休日出勤予定者には、しっかり代休を取るようにコメントし、家族旅行をする社員には、良い思い出を沢山作るようにとコメントし、また、感想を求めるようにしている。
ただし、考えるべきは、充実した生活(ライフ)を送るためには、雇用が安定していることが前提であり、そのためには、どこかの総理大臣のように「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と叫んでいるだけではダメだということだ。自分が働く企業が成長、発展してこそ、そこに「ワーク・ライフ・バランス」を考えるゆとりが生まれるのであり、そのためには、仕事(ワーク)の効率を高め、時短しながら付加価値を高めることがなければならない。同じ仕事なら、どうすればこれまでより早く仕上げることができるかと、働いている時間中は必死に考えることだ。